「ツインピークス」初級者ガイド その4
デイヴィッド・リンチのすべてがこの作品にある
すべてのリンチ作にTP要素あり
イレイザーヘッド
1976年 監督・脚本/出演:ジャック・ナンス
ヘンリーは恋人メアリーX から妊娠を告げられるが、生まれてきたのは奇妙な形の赤ん坊だった。彼は狭いアパートで赤ん坊を育てる。サウンドトラックはリンチ自身も担当。
TP要素
主演ナンスは製材所オーナーの義弟ピート役で出演。その妻役女優が丸太おばさん、奇形児の母役女優がボビーの母を演じている。
エレファントマン
1980年 監督・共同脚本/出演:ジョン・ハート
アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞ほか8賞にノミネート。19世紀のロンドンを舞台に、実在した象皮病による奇形に苦悩する男ジョン・メリックと彼の主治医を描く。
TP要素
「イレイザーヘッド」同様、奇形の登場人物が登場。TPにも小さな男や巨人、片腕のない男などさまざまな異形の存在が登場する。
デューン/ 砂の惑星
1984年 監督・脚本/出演:カイル・マクラクラン
フランク・ハーバートのカルトSF大河小説を映画化。架空の惑星が舞台。ある領地の統治権継承者の成長を主軸に、政治集団、宗教集団、民族集団らの抗争を描く。
TP要素
クーパー捜査官役マクラクランは本作でリンチ作初主演。リンチは失敗作と語るが、端役登場人物の変形シーンの描写等にリンチ色が。
ブルーベルベット
1986年 監督・脚本/出演:カイル・マクラクラン
青年がのどかな町の緑の野原で、切断された耳を発見したことから、奇妙な人間たちと出会い、暴力と猟奇に彩られた世界へ。LA 批評家協会監督賞など多数の映画賞を受賞。
TP要素
一見平和な町のダークサイド、点滅する電灯、脳が熔けそうなほど甘い60年代のポップソングなどモチーフから小道具まで共通要素満載。
オン・ジ・エアー(TV)
1991年 製作・監督/出演:ミゲル・フェラー
57年を舞台にTV 局開局の裏側を描くコメディ。リンチのTVシリーズには他にホテルが舞台の各話完結連作「ホテル・ルーム」(92)もあるが、ともに不発で短期間で終了している。
TP要素
マーク・フロストが共同製作。FBI の検察官役フェラーとデパート店員役イアン・ブキャナンが出演、彼らのコミカル演技は共通。
ワイルド・アット・ハート
1990年 監督・脚本/出演:ニコラス・ケイジ
チンピラのセイラーと、抑圧的な母親に悩むルーラは恋の逃避行に出るが、そのルーラの母が彼らのもとにさまざまな追っ手を送り込んでくる。カンヌ映画祭パルムドール受賞。
TP要素
TPと同時期製作し、共通出演者多数。ジャック・ナンス初め、ローラ、ローラの母、オードリー、ホーンの弟役のTP俳優が出演。
ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間
1992年監督・共同脚本・製作/出演:シェリル・リーTVシリーズ以前を描き、ローラ殺害を巡る状況を映像で描いて説明する番外編。新たに判明する事実はないが、TV版に出てきたセリフの意味が明確になったりする。
TP要素
ローラの実像を描くという内容のため、基本的には普通のドラマ的な演出だが、やはりリンチならではの奇妙な現象は続出する。
ロスト・ハイウェイ
1997年 監督・共同脚本/出演:ビル・プルマン
サックス奏者フレッドと妻レネエの元に、彼が妻を殺害している映像が映ったビデオが届く。それを発端にフレッドの周囲で、現実とも非現実ともつかない出来事が次々に起きる。
TP要素
解決不能な殺人事件、次々襲い来る悪夢のような出来事は共通のもの。なにより暗いハイウェイ路上の映像が、TPの同風景と酷似。
ストレイト・ストーリー
1999年 監督/出演:リチャード・ファーンズワース
新聞掲載の実話を映画化。73歳の老人が、長年仲違いしていた76歳の兄と仲直りをするため、農耕用トラクターで時速8キロの旅に出る。アカデミー主演男優賞ノミネート。
TP要素
味のある老人は、実はTPの得意技。ホテルの老ウェイター、銀行の貸金庫の老管理人などが場面をさらう。TP的な大鹿も登場。
マルホランド・ドライブ
2001年 監督・脚本・製作/出演:ナオミ・ワッツ
女優志望のベティが記憶を失った女性リタと出会い、いっしょに彼女の正体を探るハリウッド内幕ミステリー。が、映画には驚愕の仕掛けが。アカデミー監督賞ノミネート、カンヌ映画祭監督賞受賞。
TP要素
ブラック・ロッジ的な空間にTPの小さな男が扮する謎の存在が。点滅する電灯、古風なポップソング、金髪と黒髪の美女2人組も。
おともだち
アンジェロ・バダラメンティ
「ブルー・ベルベット」以降すべてのリンチ作の音楽を担当し、脳が痺れる音楽を提供。この作品と「マルホランド・ドライブ」では出演も。
「ロスト・チルドレン」「ザ・ビーチ」なども手がけるがリンチ作が最も似合う。
「マルホランド・ドライブ」では、含んだコーヒーをナプキンに吐き出す怪しい演技も披露。押しも押されぬ大御所作曲家も、リンチの手にかかるとご覧のとおり。
バリー・ギフォード
「ワイルド・アット・ハート」「ホテル・ルーム」「ロスト・ハイウェイ」でリンチと共同脚本。夜に住む凶暴な人々を描き続ける小説家でもあり、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督「ペルディータ」は彼の小説が原作。
「ワイルド・アット・ハート」の登場人物が出てくる南部の夜三部作「ナイト・ピープル」「アライズ・アンド・ウォーク」「ベイビィ・キャット―フェイス」も邦訳あり(文春文庫)